山梨県から世界へ
日本国内でも人気のデザイナーズジュエリーブランドのbororo(ボロロ)やjanuka(ヤヌカ)、talkative(トーカティブ)といった認知度が高いブランドを担当している詫間宝石彫刻さん。
今回はラヴァーグジュエリースクールで天然石研磨コースを指導しているスタッフ松尾が、第一線で活躍されている詫間さん達を訪ね、甲府の宝石研磨の発信に対する思いや、長年携わってこられた宝石研磨に向き合う姿勢、今後の詫間さんたちの見据える未来のお話を伺ってきました。
一面ガラス張りの入り口から感じた発信していく姿勢
山梨県の甲府駅からほど近くにある詫間宝石彫刻さんに到着してから、はじめに見せて頂いたのが2020年に建てられたいうショールーム。
この日は天気が良く、寒い時には−7℃にもなるという甲府でも朝から気持ちの良い光が一面ガラス張りの入り口から入ってきていました。
現代的なコンクリートの建物の中に置かれている什器は、アンティークのショーケースが置かれ、中にはこれまでに携わってきた沢山のジュエリーブランドさんたちのサンプルが展示されていました。
ワークショップや撮影に使われているという室内からは、アートギャラリーの装いがありました。
数々のデザイナーズジュエリーブランドと何年も携わり続けて来たセンスが垣間見え、甲府の中だけにとどまらず外に発信していく姿勢をはじめに感じさせられました。
次の時代を見据える詫間宝石彫刻
詫間宝石彫刻の歴史は先代の詫間悦二(えつじ)さんが立ち上げた「詫間宝石彫刻製造所」からはじまりました。
現在の代表である詫間康二(こうじ)さんは、父の悦二さんから高校卒業の頃には、宝石彫刻は継ぐことを一度反対されてしまいます。
当時バブルの影響で需要の大きかったジュエリー製造の道へ進み金属加工技術を習得することになりました。
しかし後に詫間宝石彫刻として、ご自身でかじ取りをし経営していく中で、金属加工と宝石研磨それぞれの特性や加工方法を活かしながら技術のすり合わせが出来るという事に気付かれたそうです。
この事で、これまで大切に受け継いできた伝統技法を使い、新しいものを生み出していきたいという意識が強くなったそうです。
しかしこの意識をカタチにするためには、機械を使いこなしていく技術が必要で、こんな機械が必要だと思えば様々な工場の片隅で埃をかぶっているような機械を買い取って、技術者から動かし方を学んでいったそうです。様々なところへ足を運び自分の知らないことはとにかく聞きに行って教えてもらう。その代わりに自分が知っていることは惜しみなく相手に伝えていくことを、康二さんは大切にされていました。
こういった詫間さんの前向きな姿勢が現在の多くのジュエリーブランドから依頼が来るようになり今の詫間宝石彫刻となっていったようです。
デザイナーズブランド -bororo-との出会い
ー引用 bororo ロックリング
10年程前、都内のファッション関係の友達のところへ遊びに行ったとき、当時まだ出始めたばかりのiphoneを教えてもらう。タッチパネルや縦スクロールでケータイを操作していくことや、twitterというSNSがあることを知り、ソフトバンクがiphoneキャリアとして参入したタイミングで康二さんも購入。
ブログを初めて自分たちが何者であるか、どんなことをしているのかを発信し始めた時に、2投稿目くらいに当時宝石商をしていた今のbororoデザイナー赤地さんから相談があったそうです。
お互い商品を売っていくというより、世の中に新しいアイデアを発信していきたいという価値観が合致し話がどんどん進んでいったようです。
そうやって生まれていったのが、あの同摺りの技法を活かしたロックリング。
当時はなぜか「詫間はbororoとしか仕事しない」と噂が流れていたそうですが、そういうわけではなく、「そのブランドのアイコンを一緒に作っていく。ブランド名を聞いた時に商品が浮かべば10年はやっていける。そういうい仕事を一緒にやっていきたい。」と話してくれました。
一過性の単発で終わってしまう仕事ではなく、一度仕事をするならばガッツリ付き合っていきたい、そういった人間関係の構築から他のブランドには真似できないやり方を惜しみなく提供して、そのブランドの顔となるカット技法はそのブランドにしか使わないと言っていました。
似たようなものを作ってほしいと依頼が来ても、それは一緒に開発してきたデザイナーさんへの筋として、お断りをしているのだそうです。技術の商標登録も都度取っており、同じ商品が発生しないようにし、デザイナー間のトラブルが起きないようにとの配慮が感じられました。
詫間宝石彫刻とは
山梨県の宝飾組合の中には貴金属加工・宝石研磨・美術彫刻の3軸があることを教えて頂きました。
貴金属加工はジュエリーのベースとなる金属部分の加工。一番初めに康二さんが就職をした会社でも、空枠(からわく)と呼ばれる宝石がセッティングされる金属をたくさん作ったと仰っていました。
宝石研磨はルースのリカット(宝石を研磨し直すこと)と原石からルースにする仕事があり、正確に美しいフラットな面を出さなければいけない為、研磨器も盤面が水平に回転する機械を使用しています。
美術彫刻は原石からオブジェのような工芸要素もある立体的な加工が必要なため、縦方向に回転する機械にコマと呼ばれる円盤と研磨材を使い彫刻を施していく仕事です。
通常はそれぞれ1つを専門に扱い仕事をしているのが一般的な中、詫間さんたちはその3つ全てを兼ね揃えていることが他社との大きな違いであるといいます。
職人さんたちは会社内で部署移動を行いながら、総合的に知識や技術を持つ人材を育成されるので、デザイナーさん達から依頼される「金属と宝石の一体感のある」ジュエリーのオーダーを一貫して受ける事が出来るのです。
詫間宝石彫刻では、若手職人育成の一環で玄関に飾る水晶彫刻を彫ってもらうそうです。
現在6名いる職人さんたちは期限が決められ、それまでに納得いくものを仕事終わりに何時まででも工場の使用を許可しチャレンジしてもらう。
ちゃんと出来たら玄関に飾って、来客した人達に「うちの若いのはちゃんと育ってます」と社長自らが若手職人を立てているそう。
「これは今の時代に合ってないかもしれないけど、ある程度ストレスがかかる時間はその人の成長には必要だと思っている。うちを離れても食べていけるように、一人前を育てる為にはそういった負荷は必要」と康二さんは話してくれました。
自分も職人として経験してきたことで、厳しくもありそれが優しさとして感じられるお話でした。
信頼関係が何よりも大切。
甲府の石屋さんの中でも特殊なやり方で仕事をしている詫間さんに作ってもらいたいデザイナーさんからのオファーは多くあるそうですが、どんな人と一緒にお仕事してみたいのか聞いてみました。
初めて仕事をする人には、「どんな売り方をしていくのか?」というところを聞くそうです。
石屋さんなので技術的な話をするのかな?と思いましたが、ブランドが思い描くストーリーを最初に聞くというところが意外でした。
そのブランドが描いているイメージを聞いていく中で、面白いアイディアが浮かんだらデザイナーさんへ「こうやってみない?」と提案もしてくれるそうです。
常に技術開発をしているからこそ、そのブランドに一番合うアイディアを詫間さんがバランスを取ってくれるそうです。
「そのブランドのアイコンを一緒に作っていく。ブランド名を聞いた時に商品が浮かべば10年はやっていける。そういうい仕事を一緒にやっていきたい。」と話してくれました。
一過性の単発で終わってしまう仕事ではなく、一度仕事をするならばガッツリ付き合っていきたい、そういった人間関係の構築から他のブランドには真似できないやり方を惜しみなく提供して、そのブランドの顔となるカット技法はそのブランドにしか使わないとも仰っていました。
こういった懐の深さは意外と孤独になりがちなデザイナーにとってはありがたい存在なのではないでしょうか?
「先週も凄く楽しそうなアイディアを思いついたんだけど、それを誰と一緒にしようかな?」と。ワクワクした笑顔で新しいイメージを持っている人との出会いを楽しみにされていました。
天然石を自分で研磨してみる。
ここ数年で増えた石好きのみなさんは、ミネラルイベントなどで原石やルースを購入し自宅でコレクションし楽しまれていると思いますが、もし自分で研磨を覚えることが出来れば、より天然石の知識と経験を身に付ける事が出来ます。
ラヴァーグにある天然石研磨コースを受講される生徒さん達は、
「自分の大好きな天然石をジュエリーとしてお客さまへ届けたい!」そういった気持ちの方が多くいらっしゃいます。
実際に自分の手で研磨したという経験によって、詫間さんたちのような天然石を扱うスペシャリストに自分の想いを伝えることが出来ればよりクオリティ高い商品を制作する事が出来るようになります。
詫間宝石彫刻での垣間見えた日常とその先
康二さんの弟で伝統工芸士の亘(わたる)さんは、代々受け継いできたファセッターを使い、研磨機や研磨ディスクも特注でより精度と効率を求めた機械を使用しているお話をしていただきました。
他の職人にとっては扱いが難しいそうですが、亘さんにはなじんでいる様子から、その機材を手なずけていることや、職人一人一人に合う機械が違うことに、技術を高める者にしか分からない境地の部分を垣間見たように感じます。
また、自身の探求心のためどうやったら早く綺麗に研磨できるのか?を常に研究していらっしゃいました。
ご本人は「昨日も夜中まで遊んでいて、、」とお話をしてくれましたが、研究しているのではなく”遊んでいる”という感覚なのは、自身の探求心のための時間なので”仕事終わりの遊びの時間”なんだと。
人によっては「努力」と捉えられる行動を、亘さんは「遊び」と捉えていること。夜、ご飯を食べ終わってお風呂上りの寝る前に工場で研磨で遊ぶということ。
「好きだから」とかのレベルではなく、亘さんにとって人生の大部分が研磨なのだろうと衝撃を受ける言葉でした。
その妥協のない姿勢は本物の職人であり、背筋が伸びる思いがしました。
いつの間に日が落ちて夕方近くまでお邪魔してしまいましたが、工場には幼稚園から帰った詫間さんの甥っ子たちやそのお友達も工場に顔を見せに来ており、可愛らしい声が響く優しい夕暮れでした。
亘さんは「甥っ子の学校の職業体験でも、結局フルオーダーのネックレスを作らされた」と苦笑いしつつも、愛情を感じられるエピソードや、近くにいる同業の職人さんたちも明かりがついてたからと夜中の来訪がよくあることなどを楽しそうに聞かせて下さりました。
私たちが長い時間お話させていただいた後、既に次の亘さんの来客の方が待っており、いつものことだよ(笑)と人気者の様子が伺えました。
地元の人たちからも信頼を置かれ常日頃からの人の出入りが絶えない風通し良さを感じられました。
詫間兄弟の楽しみ
康二さんたちはコロナも落ち着いてきたこれからは、海外での買い付けも再開していきたいと仰っていました。
石のコレクターでもある康二さんと亘さんたちは、これまでに世界最大のツーソンミネラルショーや、研磨の本場インドやタイに赴いた際には原石を見ながら「ここをカットすればあんな展開できる」と何時間でもお2人にしかわからない視点で見続けることがとにかく楽しく、また行きたいと教えてくれました。
また、今後は協力したブランド達と共に、日本のみでなく世界へ展開をしていく視野を持っているとのこと。
そのお話をして下さっている時の康二さんのワクワクしながらも勝負に出る強い意志を持っている表情が、しっかり伝わってきました。
こちらまで楽しみで仕方がない、飛び切りのニュースを聞かせていただきました。
訪問後記
自然が生んだ美しい鉱物たちに人の手を加えることで、輝きを増したり、石そのものの表情を強調し魅力の底上げをする生業。
その為にはそれぞれの石の性質を深く理解し、一つ一つの原石と向き合い、思い描いた完成形を実現するための高度な手技が求められます。
その最前線で活躍するプロのお二人からお話を聞くことで、康二さんからはネットに溢れる表面的な情報だけでなく、成り立ちや成長の過程から伝わる根幹の想いやこだわり、未来への視点に触れさせていただき、亘さんからは人情味あふれるエピソードや、職人としての尊敬すべき姿勢、また、天然石研磨コースカリキュラムの内容や道具のアドバイスを頂ける貴重な時間となりました。
ラヴァーグジュエリースクールにも天然石研磨コースがあることから、天然石研磨の魅力を知って体感してもらう一歩目の場所として、軸の部分を強化出来た訪問になったように感じます。
あの澄んだ空気と石の削れていく音の中、今日も黙々と職人さん達が新たに美しい宝石やジュエリーを生み出すため真剣に向き合っているのだろうと、甲府へ想いを馳せるのです。
詫間宝石彫刻
会社情報
株式会社詫間宝石彫刻
〒400-0031 山梨県甲府市丸の内3-26-1
E-mail info@takumahouseki.com
Tel 055-224-2039
Fax 055-224-2009
詫間康二(たくまこうじ)
代表取締役
1973年生まれ
伝統工芸士,ジュエリーマスター
25歳で父 悦二に師事。
2010年にkoji takumaとしてパリの合同展に出展
2018年LEXUS new takumi project 山梨代表
石の買い付けからデザイン、加工まで一貫して行う。
詫間亘(たくまわたる)
取締専務
1974年生まれ
伝統工芸士、ジュエリーマスター
貴石彫刻の技術に加え、カッティングもこなす