2つのジュエリーCADコース
少し前まではジュエリーCADの選択肢はパソコンしかなかったため迷わずパソコンでの作業だったのですが、スマホやタブレットが発展するにつれて新しい選択肢としてiPadのCADアプリが登場しました。
登場初期こそ使い勝手が悪かったものの、技術の発達とともにiPadのCADアプリもジュエリーCADソフトとして使える存在になってきたこともあり、手軽にジュエリーCADを始められるコースとしてLaVagueにiPad ジュエリーCADコースが誕生しました。
こうやって選択肢が増えるのはうれしいことなのですが、
そうなったらそうなったで「パソコンとiPadどっちがいいの?」というところが気になりますよね。
これからジュエリーCADを学んでみようと思っている方にとってはとても悩ましい問題です。 そこでこちらのページではパソコンのCADソフト「Rhinoceros(ライノセラス)」とiPadのCADアプリ「Shapr3D(シェイパースリーディー)」の違いについて紹介していきます。
CADソフト RhinocerosとShapr3Dの基本的な違い
ちなみにどちらのCADソフトもジュエリー専用というわけではありません。
※価格や対応端末など下記の情報は2023年1月現在のものです。
Rhinoceros
- 対応端末:パソコン
- 対応OS:Windows / macOS
- 対応言語:日本語(多言語で使用可)
- お試し版:90日
- 販売価格:¥148,000
Shapr3D
対応端末:iPad / パソコン
対応OS:Windows / macOS / iPadOS
対応言語:iPad版は日本語可・パソコン版は英語のみ
お試し版:14日(機能や保存が制限された無料版あり)
販売価格:¥42,800/年 ¥5,500/月
Rhinocerosが使えるのはパソコンのみ、対してShapr3DはiPadはもちろん、Windows/Macのパソコン版もあります。
またRhinocerosは定価が¥148,000と高額で、Shapr3Dはサブスクではありますが1年契約の価格が¥42,800。月契約であれば一月¥5,500とRhinocerosと比べるとリーズナブルです。
こういったところを比較して、とりあえずShapr3Dを選ぶ人もいそうですね。
ではこれらを踏まえてジュエリーCADを学ぶならRhinocerosよりもShapr3Dの方がいいのでしょうか?
それは使い方、ジュエリーCADを使う目的によります。
仕事はRhinoceros、趣味+ちょっと仕事はShapr3D
ジュエリーCADを仕事で使いたい、クオリティの高いジュエリーを作りたい、のであればRhinoceros。
趣味でジュエリーを作る+仕事で使える場面があればちょっと利用する、であればShapr3Dで大丈夫です。
RhinocerosはCADのモデリングソフトですので、難易度の差こそあれ大抵のものは作れます。
精度も高く作ることが出来ますので、ジュエリーブランドの製品を作ったり、オーダーを受けたり、デザイナーの意向を汲んだジュエリーを作るなど、仕事で使用するならかなり重宝するはずです。
またノートパソコンであれば持ち運びもでき、出先で作業することも出来ます。とはいえしっかりモデリングする時はやはり腰を落ち着けて作業することがほとんどなので、働き方にもよりますが外でモデリングする機会は思いの外少ないかと思います。
では同じCADソフトであるShapr3Dの強みはなにかというと、手軽というところです。
iPadはパソコンと比べて圧倒的にコンパクトで起動も早いため、自宅でもカフェでも電車でも、それこそ場所を選ばずモデリングすることができます。
しかし仕事として商品をバリバリモデリングする!というヘビーな使い方には向かないかと思います。
製品レベルのきっちりしたものを作ろうとした時に難しいこともありますので、趣味でジュエリーを作る、プラスでちょっと仕事のデータ、といった使い方になるのではないかと思います。
Rhinoceros で作れてShapr3Dで作れないもの
「つまり簡単な物ならできて難しいものが出来ないってこと?」と思うかもしれません。
しかし簡単な形だから出来る、難しい形だから出来ないのではなく、CADソフトとしてモデリングの仕組み的に出来る出来ないがあり、難易度での出来る出来ないとは異なります。
すごく簡単そうな形でも出来ないものもありますし、すごく難しそうな形であっても出来るものもあるということです。
また、出来たとしてもなんとなくそれっぽい形、という物もあります。
正確ではないけれどなんとなく雰囲気的に出来てる、というものです。
これは趣味として自分の納得できるものであれば問題ありませんが、商品として、製品として扱うのであればクオリティが足りません。
これらを理解した上でShapr3Dを選ぶのであれば問題ありませんが、CADだから何でも出来る、安いから、お手軽だからという理由だけで選ぶと物足りなく感じるかと思います。
とはいえ言葉だけではわかりにくいと思いますので、Shapr3Dでは難しかったり苦手だったりするものを、ジュエリーCADコースのレッスンサンプル(Rhinocerosを使って作ったもの)を具体例にして見ていってみましょう。
シンプルな形状のため意外に思いますが、これは難しいです。
それっぽい形にすることは出来ますが、厚みや幅が上下左右で違うもの、そしてそれが自然に馴染んでいくものを正確に望み通りに作るのは難しいです。
こちらもそれらしい形にすることは出来ますが、正確な物は難しいです。2本の指輪が絡んだような形状ですが、それぞれ幅や厚みは一定です。ですがうねりが加わると一定の幅で作れず、細いところと太いところが出来てしまいます。
これは解説がちょっと難しいです。というのもジュエリーCADコースでのこちらのレッスンは、リングを後から変形させるレッスンなので、そういった意味では出来ないと言えます。ただ形だけでいえば工夫次第で作れます。
これもLesson1の形状と同じで、幅や厚みが変動するようなデザインなので出来ないかと思いきや、手間をかければ作ることが出来ます。ちなみにその手間を先ほど紹介したレッスン1や5でも行えば作れますが、労力と精度が釣り合いません。
こちらは雰囲気であればそれっぽいものが出来ますが、望み通りのものを作るのは難しいです。とても小さく作ればごまかしは利きますが、大きくなればなるほど出来上がりに不満が出てきやすいです。
これは作ることが出来ます。宝石がたくさん入っているので難しく思うかもしれませんが、一定の間隔で並べたりすることは出来るので、比較的簡単に作ることが出来ます。
こちらはこれまで紹介してきたものの中では一番難しそうに見えますが、石が乗る部分も作れますし、リング部分も工夫は必要ですが作れます。もちろん手間はかかります。
似たような雰囲気のものは出来ますが、一面だけひねりが加えられているような形を作るには工夫が必要で、かつ石が入る面だけ大きくしたりは出来ません。最終的に手作業でリカバリーすることを前提で作る必要があります。
ちょっと大変ではありますが、左側の石の配置は出来ます。
対して右側はL字に曲がった部分と、リングの腕の部分の山をキレイに合わせて作るのは難しいです。
どちらかというとこういうエッジが立っている形状は得意な分野になります。もちろん工夫は必要になりますが、うねりがあったり、幅や厚さが途中で変化するようなモデリングよりは簡単です。
シンプルなデザインだから簡単に出来そうに見える物でも出来なかったり、複雑なデザインなので無理そうに見えて実は出来てしまったり、意外な結果だったのではないかと思います。
ちなみに、もちろんRhinocerosでは全部作れます。
一言で言い表すのは難しいですが、Shapr3Dはだんだんと形状が変わっていくものやフリーハンドで描くようなウネウネしたもの、ひねりがあるものをモデリングするのが比較的に苦手です。
ですが上記で出来ないと書いたものでも、手間をしっかりとかけてあげれば出来たりすることもあります。 ただしそのためにはツールの特性などをしっかり理解しないと作り方がわかりませんので難易度は高めになります。
Shapr3Dで出来てRhinocerosで出来ないこと
その答えは直接的なモデリング以外のところにあります。
iPadを使ってのモデリングなので、iPadを開いたらすぐにでもモデリングを始められます。
パソコンだとどうしても起動から作り始めるまでに時間がかかってしまいますので、思い立ってすぐ!というわけにはいきません。
iPadのいいところは手軽なところです。そのためiPadがあればどこでもモデリングすることが出来ます。
ノートパソコンも持ち運びは出来ますが、しっかりモデリングしようとするとそれなりに落ち着いた場所とスペースが必要になります。
ARとは「拡張現実(Augmented Reality)」の略で、現実世界を仮想的に読み取る技術です。
iPadのカメラで映している現実の映像の中に作成したジュエリーのデータを表示させ、まるでそこにあるかのように見せることが出来ます。
Shapr3DはiPad版の他にパソコン版もあり、同じアカウントでパソコンのアプリも使えます。これらは同期が出来るので、腰を据えて作業をしたい時はパソコンで、出先にちょっと作業したい時はiPadでと使い分けることが出来ます。
タブレット端末のもつ圧倒的な手軽さは、パソコンにはない大きなメリットと言えるでしょう。
Rhinocerosはパソコンだけなので手軽さという点では負けてしまいます。
また、ARなどの面白い機能が使えるのもiPadの良いところです。
こういった部分に魅力を感じるのであれば、iPadジュエリーCADは良い選択となるでしょう。
ジュエリーCADを学ぶなら
仕事で使うならRhinoceros。
趣味+ちょっとくらいの仕事ならShapr3Dでも大丈夫。 です。
LaVagueにはどちらのコースもありますので、RhinocerosとShapr3Dの違いはなんですか?とよく聞かれます。
しかし、違いを話そうとするとどうしてもShapr3Dの方の話が多くなってしまいます。
理由は基本的にRhinocerosの方は大体のことが出来てしまうからです。
ですので両者の違いとなるとShapr3Dの出来ないところ、足りないところを話すことがメインになってしまうのでShapr3Dがイマイチ良くないように見えてしまうのですが、そういうことではありません。
もちろんRhinocerosと比べるとモデリングという点では出来ることは少なくなってしまいます。
しかし手軽さや持ち歩きやすさはパソコンにはないアドバンテージです。
その特徴を理解すれば、状況に応じて上手く使い分けられるのではないかと思います。
逆にRhinocerosであれば大抵のものは作れてしまうので、迷うようであればRhinocerosを選んでおけば間違いはないです。
自分でブランドを立ち上げて商品を作りたい。どこかのブランドに就職してジュエリーを作る仕事をしたい。オーダー商品など既存の商品にはないジュエリーも作りたい。などなど、仕事でジュエリーCADを使っていきたいならRhinocerosでないと厳しいです。
Rhinocerosと同様の作業をShapr3Dでしようとすれば遅かれ早かれ作れないものが出てくるでしょう。
これらを踏まえ、これからジュエリーCADを学んでいくなら、
とりあえずジュエリーCADがどんなものか触れてみたい → Shapr3D(iPad ジュエリーCADコース)
仕事でジュエリー制作にジュエリーCADを使っていきたい → Rhinoceros(ジュエリーCADコース)
を選ぶのがおすすめです。